「国立が一番!」内田 潔(昭48経)

第98回植樹会休日作業(2011年10月8日)に睡眠会員がついに参加しました。いつもは平日に行われるのが、年1回程度は企業が休みの日に開催してくれるのだそうです。毎回、休みの日にやればいいではないかと参加したことのない人は思うでしょうが、キャンパスを開き、また学生にも参加してもらうとなると、大学の関係者が立ち会える日程が求められるとのことです。大学法人としてガバナンス、コンプライアンス上の要件があるのでしょう。

作業中

私は現在サラリーマン第2の職場の公益財団法人で奨学金を学生に支給する仕事についており、首都圏にある大学の学生支援課を時折訪問するのですが、今回はいつも訪れている国立の本館ではなく、学食のある建物からさらに奥の、森と呼べる空間での作業をやらせてもらいました。その作業の様子や顧問の福嶋先生からお聞きした将来に向けた今後の計画について述べることは今回の私の寄稿の主旨ではありません。仕事で訪れる他の大学との比較を少しだけお伝えしたいと思うのです。

私達は人生で普通一つの大学しか経験しません。受験の時、他の大学のキャンパスを訪れるかも知れませんが、試験のことが頭に一杯で記憶に残らないでしょう。私は幸いにして10校もの首都圏の一流大学のキャンパスを何のプレッシャーを感じることなく訪問し、毎回国立のキャンパスと比較していい気分になっているのです。すなわち、確信を持って一橋のキャンパスが一番いいと言えるのです。これを皆さんに伝えようと思ってパソコンに向かっています。

先ず東京大学です。本郷しか知りません。正門(黒門)から進むと銀杏並木が人工的に維持されていますが、臭う銀杏の残骸と落葉しか印象に残りません。巨木化した木々がコンクリートで覆われたキャンパスの下で根が伸びる先を見つけられなくなり、いつか建物に倒れ掛かるのではと危険を感じます。さらに余計なお世話でしょうが、その並木の先の安田講堂は兼松講堂のように陽を反射する明るさがなく美しさに不足しています。赤門から入った経済学部のエリアは一橋に負けじと新しい研究棟が流通業の寄付金で最近完成しましたが、そのために緑の空間が急激に減り、新宿西口のビル群に似てしまうおそれがあります。それでも以前はその緑の空間にさびた自転車が放置、廃棄されていたわけですから、それと比べれば改善してきているとはいえます。本郷で唯一自然らしい自然を感じさせるのは三四郎池です。あまり学生を見かけることはありませんが、落ち着いた品格のあるエリアとなっており、手入れもできているように思われます。手入れといいましたが、一橋以外は私が確認できた範囲ですが全ての大学は施設管理課というような組織が手入れを担当しています。もちろんOBが主体となって手入れしているという話はありませんでした。

東工大、東外大は共に人工的に作られたキャンパスという印象です。東工大は2年前まではイギリスのランドスケープガーデンを思い出させる緩やかなアップダウンが記憶に残るたたずまいだったのですが、最近の改修と新築工事等で随分と変わってしまい正門から右手の一角は、大岡山に上海が来た!思いを覚えます。真っ白なバイキングの船を連想させる図書館を学生達はどのように評価しているのでしょうか。また傾斜のある芝生にも広い通路が出来てしまい、心を癒す芝生の斜面ではなく、通りにくい傾斜地という趣に変化してしまいました。東外大は、まっ平らな広々としたアプローチが開放感を与えますが、土を全てタイルで覆ってしまったため、人工的な都会の学園風です。手入れの手間を省けることは間違いありませんが、自然はここには見当たりません。

筑波大学はこの反対で、意識的に自然を残しつつ建築物を配置してきた経緯があり、自然と大学が共存していると言えます。少々落葉樹が優勢すぎるキャンパスで、冬季は寒々しい景観に変わります。全体のスケールが大変大きく、私達のような植樹会の手には負えない規模ですから、外部業者に任せて、順に改修並びに整備を行っているようです。授業を行う建物の入口には新築の時にはきれいに草花が植えられていたことを想像させるレンガ作りの植え込みスペースがあるのですが、悲しいかな、全て雑草のサンクチュアリーになっていて、吉田兼好が徒然草で述べた無常を感じさせます。一橋も心しておく必要があります。

私学では早稲田と慶應(三田)でしょうが、共に建物の間に緑のスペースが残っているという印象です。学生が増える中で、土地の有効活用を追及してきたわけで、大きな樹木は残されているものの、木々らは孤独ではないのか、学生達がその存在を意識してあげることがあるのだろうか、と疑問に思わざるを得ないたたずまいです。また、これら孤独な大木達のほかは都心にできる近代的なホテルのように周囲に植栽が配置され、大変きれいに整備されています。きれい過ぎるため、当然OBたちの汗、熱は伝わってきません。

以上、悪口ばかり言っているようになってしまいましたが、国立を知っている者としてはそういう感想を述べざるを得ないのでお許し下さい。ご家族と関係のある他大学もあったかと思いますのでご勘弁を。何せわれらが国立は「武蔵野深き松風に」常緑樹と落葉樹の組み合わせが維持された森と建物がうまく調和しています。心休まるたたずまいという表現が適切な状態にあります。

春の中庭

これを支える活動はフィランソロピーそのもの、母校を越える社会貢献に通じるものです。

自分が学生であったとき、特に意識しなかった国立の緑がこんなにも有難く思えるのは自分の年齢と地球のエコロジー意識の高まりによるものだとは思いますが、それプラスOBと大学及び学生が共同で活動するというステークホールダーたちの健全性に誇りを感ずることができます。今後のオンリーワン植樹会の活動に乾杯!

学生たちが設けた花壇
交流会