「人が造ったギリシャの自然」一橋植樹会顧問、東京農工大大学院教授 福嶋 司
作業後の福嶋顧問の出張報告は非常に興味深く、印象に残りました。 纏めの箇所をご紹介すべく掲載します。
ギリシャ(特に南部地域)の自然・食文化(まとめ)
・ギリシャの3500年の歴史は一時的に高い文化を生んだ。しかし、自然破壊の歴史であり、植物の生育期間である夏に雨が降らない地中海気候下では再生不可能なまでに人々は自然を痛めつけてしまった。
・本来、クレタ島やペロポネソス半島一帯は丘陵地と山岳地が広がり、平野は少ない。そこでは、地中海気候のもとでは植物がもっとも活発に生活する夏季に乾燥するために農耕はむつかしく、オリーブとブドウの生産が主にならざるを得ない。牛や馬の牧畜も夏に草が枯れることから困難であり、乾燥や貧栄養に耐えるヤギやヒツジのような家畜を選ばざるを得なかった。
・人類が文化を営むようになる以前のこれらの立地には森林が広がっていたと考えられる。乾燥地にはサイプレス類(Cypressus sempervirens), ユニペルス類(Juniperus oxycedrus), の森林が発達し、少し乾燥の弱い立地には常緑カシ類(Quercus cocciferea, Q. ilexなど),カエデ類(Acer sempervirens), ケヤキ類(Zelkova abelicea)などが広がっていたと考えられる。また、やや乾燥の弱い立地には「マッキー」と呼ばれる低木群落が広がっていた。それらの地域に放牧されたヤギやヒツジは植物の芽や根までが食べてしまった。地表に植物の被覆がなくなった場所では、雨による侵食がさらに進み、土壌の細かい粒子が流れ去った。このため、ますます植物の生育する環境ではなくなってしまった。その結果、現在のような広い荒地が広がることとなった。現在、そこには食べられることに耐えられる植物しか生育できなかったし、植物は食べられにくい枝や葉に針を持つものだけが残ることになった。そして、緑を再生するための地力が失われた。
・食文化もこのような自然の状況を反映している。フェタチーズ、サガナギ、サジキなど乳製品はヤギの乳を主体にしている。また、飲み物は良質のブドウ酒があり、地中海式気候の乾燥条件を反映して深い味わいのあるものになっている。また、ブドウ酒を絞った後をさらに蒸留して生産するラキ、ウゾがある。
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