「私と一橋大学」前本学施設課長代理 伊藤正秀
1993年(平成5年)4月一橋大学に赴任しました。駅から桜並木の大学通りを少々不安げに歩き、暫くすると大学の正門。そして門を抜けると、目の前に広がる異空間が飛び込んできました、緑豊かな自然と古めいた時計台。「これ、本当に大学なの?」が私の第一印象でした。
仕事は施設課機械設備係。給排水ガス・空気調和を担当する部署です。まだ大学のこともわからぬまま佐野書院と第2研究館の新営工事を任されました。本来計画段階から設計に至るまで熟知して現場管理していくのが仕事の流れですが、途中から入るのは難しく、苦労しました。持ち前の技量といい加減さで、どうにか1994年(平成6年)に完成にこぎつけました。「これで少しはゆとりができる」と思いましたが、実はここからが地獄の始まりした。
まもなく東キャンパスの開発が始まりました、当時の東キャンパスは、東本館・旧中和寮・木造2階建クラブハウス・空手道場があるだけで、サクラの大木が池の周辺を覆い、近隣の住民の憩いの場所となっていました。東1号館建設のため、樹木を伐採して整地する工事が始まりました。すると近隣の住民が騒ぎ始め、「私と一緒に育った木を切ることは絶対許さない」と、文部省(現文部科学省)に直訴したため、工事は一時ストップ。そこで相当数の樹木を移植しましたが、ほとんどが根づきませんでした。今でも、移植後枯死している大木がそのまま残っています。その頃から私も植樹に関わり始めたのでした。
東1・2号館、カフェテリア、西キャンパスの図書館増改築、課外活動施設、情報教育棟などの整備に次々とかかわり、「終わりが見えないぞー!」と思いました。
追い打ちをかけるように、小平の再開発です。気が付いたら10年の月日が流れていました。
そして一橋大学の新キャンパスの骨格が出来上がりましたが、なにか違和感がありました。ロマネスク様式で統一された建物、そして自然豊かに広がる緑地帯がモノクロにしか見えません。新旧の建物、そして、それを囲む自然環境のバランスが全く取れていません。一歩入ると、そこには放置自転車、ゴミ、空き缶、伸び放題の雑草や樹木。
私だけではなかったのです。石元学長、田﨑先生、福嶋先生そして新生植樹会の会長岸田さん、田中さん、そうそう山本元施設課長の存在も忘れてはいけません。 誰が見ても荒廃したキャンパス。「面倒なことはなるべく見て見ぬふりをして委託業者にやらせればいい」と誰もが思っていましたが、石元学長が率先して“学内の清掃クリーンデー”を始めました。学長と教職員が定期的に構内のゴミ清掃をして、学生の構内美化意識の向上に努めたのですがの学生の無関心さにとうとう学長も匙を投げてしまいました。
一方、植樹会も2003年(平成15年)立ち上がりました。 福嶋先生の指導の下に田﨑先生、山本元施設課長、植樹会も加わって完成させた大学の管理計画を実践すべく、岸田さん(当時会長)、田中さん、福嶋先生に数人のOB・OGと施設課のメンバーが一体となって緑地整備作業を開始しました。 第1回目の作業は2003年7月。OBと教職員、そして何人か学生も含めて総勢20人弱でした。 この作業が現在の植樹会活動の原点となりました。 数本の鎌と鋸だけで作業を朝から晩まで。終わった時はクタクタでしたが、そのあとの一杯のビールがおいしかった。今でも思い出します。福嶋先生の指導で、かなり太い樹木も伐採しました。内心「これでキャンパスがきれいになるのかな」と思いましたが、作業を続けていくうちに「木々の間に光を感じ取る」ようになり、構内を歩くとき思わず上を見ている自分がいる。そろそろ植樹会活動にハマってきましたね。特に、ひょうたん池の近辺は、今ではカモが飛来する大学の“緑の回廊”の一つになりました。
コツコツ始めて12年、ボランティア作業も充実し「魅力あるキャンパス」に近づきましたが、残念なことに植樹会活動について大学の理解者が少なくなったと感じます。時の流れなのでしょうか。植樹会の大学のキャンパス見学会で玉川大学に行ったときのことを思い出します。「キャンパスにはゴミ一つ無いのですが、学生に環境美化の教育をしているのですか」と聞いてみました。担当の方が「職員一人一人にキャンパスの範囲を分割して、朝清掃をしています」とのことでした。良いのか悪いのか判断しかねますが、少なくとも大学の姿勢がはっきりしていました。
約28万㎡の国立キャンパスの維持管理をどうしますか?
多くの樹木が悲鳴を上げ始めました。台風そして害虫による被害、手入れを怠り枯死していく木々。問題が山積し始めました。「こんなに木があるなら1本や2本無くなっても大勢に関係なし」なんて言っている内に10年前の貧しいキャンパスに戻ってしまうのではないか。今は適材適所が必要な時期です。少ない予算ですが、年次計画で一画整備を行うのは如何でしょうか、ここ数年構内を廻り、「ココという場所」があります。西プラザの西側、ひょうたん池から哲学の道にかけての空間を、「憩いの場所」に整備し、池には水を循環させて小さな滝をつくるなど。
「寝言言ってんじゃないよ!」と怒られますね。
植樹会の皆様と「100年の森」を目指してきたこの10数年。「今までやってきて良かった」と心底思いますが、自然を保守して共存できる環境造りが如何に難しいものかを痛感しています。今後も、非力ですがお手伝いしたいと思っております、今まで本当にありがとうございました。