「アイルランドの自然と地熱発電」植樹会顧問 東京農工大学名誉教授 福嶋 司

アイスランドへ環境省の要請で2011年8月に行ってきた。アイスランドは日本と同じ火山国でその面積は日本の北海道と四国を合わせたくらい、ほぼ円形の島で駐郷部に氷河が広がる。人口は32万人で、最近は2010年に火山が噴火し、ヨーロッパを中心に世界の航空機の運航に支障をきたした。

火山国なので地熱発電がおこなわれており、国内の電力供給の73.8%を水力、26.2%を地熱発電でまかなっている。オイルやガスは使っていないし、原子力発電もかつては検討したが、今は考えていない。地熱発電所は、浅いところでは地下400mくらいから蒸気や熱水を取っている。これでタービン(富士通、三菱、東芝などの日本製が多い)を回して発電している。更に、地熱発電所は都市から離れた場所にあり、発電後の熱水は断熱加工したパイプラインを使ってレイキャビック方向に送っている。この熱水は地域住民の暖房、道路の融雪、温室、プールなど多岐にわたって利用されている。もっとも新しい600年前の噴火による溶岩地帯では、ブルーラグーンという大規模な温泉プールを作っており、市民、観光客の利用に供している。そのため、地熱発電と住民との距離が近く、関係は極めてよい。日本でも今後地熱発電を行うに際しては、住民との距離がもっと近くなるように努力することが重要である。

溶岩が広がる地帯では、マグマの噴出による地面の割れ目がよくみられる。その割れ目の広がりは1年間に2㎝といわれる。溶岩が噴出して固まった場所ではゆっくりと植生が発達する。植生の遷移は,1000年でスナゴケが繁殖し、2000年でエリカ、ガンコウラン、オオウシノゲグサの群落が、5000年でヤナギ類、カバノキ類の混じる群落となるといわれる。場所によっては溶岩の崩落地帯がみられる。そこを保全するという目的で外来種であるマメ科植物のルビナスが植えられている。これが異常に繁殖し、灰色の世界に突然緑のスポットが形成され、異常な景観域が出現している。今後、この種が自然の生態系の破壊を招くことが危惧される。

経済面では、豊富な電力を利用してのアルミニウム工業が盛んである。また、漁業への従事者も多い。漁業資源への制約の懸念からEUには加盟していない。また、商業捕鯨を行っている。社会面では、所得税は40%、消費税も24.5%が課せられているが、老後の生活は保障されており、高負担・高福祉の国である。また、軍隊を持っていない国でもある。北極圏にまたがる国であることから、夏の期間を大切にしており、夏休みは3か月間ある。その間、学校の先生は給料が減額されるので、観光ガイドなどのアルバイトで不足分の収入を得ていると聞いている。