「ガーデニング大国イギリスに暮らして」大宅 俊江(平13商)
約4年間、植樹会の事務局を勤めさせて頂いたご縁で、再びロンドンから筆をとらせて頂きます。昨年、ウィンブルドンからロンドン郊外のサリー州ウェイブリッジへ引っ越しをしましたので、今回は正確にはロンドンからではなくサリー州ウェイブリッジからの通信となります。
ウェイブリッジ(Weybridge)は、ロンドンから19マイル(約30キロ)離れた小さな街で、テムズ川の最も南のポイントにWey川が流れ込む場所に位置しています。中世にWey川をまたぐ橋にちなんで、Wey-bridgeと名付けられたそうです。16世紀に、ヘンリー8世がこの地に城を建てる事を決めてから街は発展し、1838年SouthHampton Railwayの運航により、ロンドンからのアクセスが可能になり、Cityで働く富裕層が大きな邸宅を建て始めました。その後邸宅を分割したりCouncil Houseが建てられたりして、富裕層以外も多く住むようになり、現在では多国籍企業のオフィスやショールーム(メルセデスベンツ、P&G、サムスン、ソニー等)が集合する街に発展しています。
郊外で大きな邸宅が多い事もあり、このエリアにはガーデンセンターが多数点在し充実しています。イギリス人がガーデニング好きなのは有名ですが、大きな庭を持っている人や多忙な人は、庭師を雇ってメインテナンスしているようです。それでも週末にはせっせとガーデンセンターに足を運び、季節の変化にあわせ、庭を自分の思い通りにする事がイギリス人の喜びのようです。
ガーデンセンターとは、庭作りの為に必要な道具から花、芝生まで一式揃えられる店です。一言でガーデンセンターと言っても、DIY( Do it yourself=日曜大工)と合体した店、農場と合体した店等多様です。また、ガーデニング道具よりは、植木や花をメインで育て、売っているNurseryという形態もあります。(イギリスでNurseryというと二つの意味があり、ここでいう植物や木を育て販売している場所の他に、保育所の意味があります。)
我が家はFlat暮らしで、小さなバルコニーに少し花を植えて楽しむぐらいしかできませんが、イギリスでの生活が長くなるにつれ、ガーデンセンターやNurseryはイギリスでの暮らしに欠かせない場所である事に気づき始めています。今回は私が良く通うガーデンセンターとNurseryをご紹介したいと思います。
まずは、ガーデンセンターを代表して、Surrey州EsherにあるGarson’s Farmという農場と合体したガーデンセンターです。ここは、広大な敷地の農場の中に、ガーデンセンターとファームショップがあります。このガーデンセンターは、広い店内に並んだ高品質の植物と充実した道具類、また庭の手入れに対する専門家のアドバイスが特徴です。庭の家具はモダンなスタイルから伝統的なスタイルまで豊富に揃えられています。ガーデニング道具や花、植物以外にも、入浴グッツ、キッチン道具、カード、書籍、おもちゃ、服等がまるでちょっとしたデパートのように陳列されています。
ガーデンセンターの中のカフェでは、お茶を飲みながらゆっくりおしゃべりに花を咲かせる子供連れのお母さん達や老夫婦でいつも賑わっています。隣接するファームショップでは、農場で取れた新鮮な野菜、果物、切り花を買う事ができます。また5月から10月は50エーカーある農場で40種類の農作物や数種類の花の収穫PYO(Pick Your Own)を楽しむ事ができます。いちご、ラズベリー、アスパラガス、ひまわりの収穫は、子供連れの家族に大人気です。12月からは、生のもみの木の販売とたくさんの美しいクリスマスオーナメントが売り出されます。もみの木は収穫(PYO)する事も可能です。一年を通してガーデンセンターに通う事により、季節の変化を肌で感じ、次の季節の為の準備をしていく、ガーデンセンターはまさに生活と密着した場所のようです。
次にNurseryを代表して、Petersham Nurseriesです。Petersham NurseriesはSurrey州RichmondのRichmond Hillのふもとにある、園芸店です。老舗の園芸店の経営が悪化し、開発業者や大手のガーデニングセンターに買収されそうになった所を、現在の庭を愛するオーナーが買い取って2004年に復活させたそうです。2009年日本のガーデニング雑誌BISEビズで「大人が一人で遊べる進化系ガーデンセンター」と紹介されましたが、セレブリティーにも人気の隠れ家のような園芸店です。
高級住宅街Richimondの PetershamRoadから道を一本入り、細い迷路のような道を抜けると、この園芸店は現れます。初めて訪れた時は店が見つからず、諦めて帰った程分かりにくいですが、見つけた時の喜びはひとしおです。
イギリスのガーデニングの伝統に特化したこの園芸店は、テムズ川のほとりに佇むオアシスのような存在です。蔦に囲まれた店内には、イギリス、ヨーロッパ、インドまたはアジアから運ばれたガーデンアンティークや工芸品によって、花や苗鉢が美しく配置されています。その開放的な店内に、一流シェフを従えたレストランとカフェがあり、庭から収穫された新鮮な野菜、果物、ハーブを使った見た目も美しい料理を楽しむ事ができます。店員がみなゴムブーツを履いているのは、店内の床は全て土だからです。季節の花木に囲まれ、ガーデンアンティークのベンチに腰をかけながら、新鮮な野菜をたっぷり使った料理を頂くと、心からリラックスでき、これぞまさにイギリス生活の醍醐味と感じます。
今年のイギリスの冬は、例年にない穏やかなものでした。それでも春の訪れを待つウキウキした気持ちは毎年変わらないでしょう。春になれば、イングリッシュガーデンに一斉に美しい花が咲き誇ります。今年はどんなガーデンに出会うでしょうか?ガーデンを通して、なかなか見えないイギリス人の本音に少しずつ近づく事ができればと願います。
ご紹介した店のホームページは下記です。