「一橋大学まちづくり授業における緑化班の思い出」一橋大学大学院社会学研究科 林 大樹(昭59博社)
学生時代以来長いこと国立に通っているが、国立キャンパスの緑の意義について意識するようになったのは、恥ずかしながら、それほど昔のことではない。2001年ごろから一橋大学と地域社会の連携や協働についてのプロジェクトにかかわるようになり、地域とのご縁もでき、2002年4月に全学共通教育科目「まちづくり」を開講することとなった。この「まちづくり」授業は、大学の地域貢献という狙いももちろんあるが、それとともに、画期的なスタイルの大学教育を開発し、一橋大学から発信したいという野心を持ち、当時留学生相談室長で地域の国際交流にも携わっていた横田先生(現在は明治大学教授)と一緒に始めた授業であった。
「まちづくり」というタイトルを掲げて授業を始めることになったものの、横田先生も、私も「まちづくり」の専門家ではなかった。そこで環境問題やエコマネーに詳しく、そうした方面でのまちづくりを実践している古藤田先生に非常勤講師をお願いし、3人の教員による指導体制を作った。それでも「人間環境キーステーション構想」という大風呂敷を広げて、地域社会が直面するありとあらゆる問題に取り組みたい学生に集まってもらったので、初年度は大教室が満員御礼になるくらいの大人数授業になり、授業運営に苦労した。この授業の特徴は学生自身が主体的にまちづくりプロジェクトを企画実行する学生参画型の授業であるので、大教室のなかに一橋大学伝統のゼミナールのような班を多数組織した。
いろいろな班ができたのだが、緑化をテーマにする班も複数結成された。ある班は国立にビオトープをつくりたいと考えた一女子学生の呼びかけで結成された。当時、私自身にはビオトープに関する知識は全くなく、古藤田先生に任せていたが、学生自身が熱心に資料を集めて研究していたので、それを側面支援するのが教員の役割と心得て応援した。残念ながら、実際にビオトープの建設はできず、研究だけに終わったが、学生たちの取り組み意欲の高さには感激した。
緑化をテーマにした別の班は市民と連携したプロジェクトができないかと考え、緑化や環境問題に取り組む市民活動団体に接触した。しかし、ある団体は絶対に樹を切るなという、別の団体は樹を切ることも必要だと言う。熱心に話をすればするほど、自分たちがどうしたらよいのか分からなくなってしまった。学生が何らかの判断をすることは、どちらかの団体(人)を否定することになってしまうと思い、身動きが取れなくなってしまった。心やさしい若者たちであった。プロジェクトが全く進展しないので、どうしたのかと聞いたら、そういう事情であった。当時、もし私たちが植樹会顧問の福嶋先生のような方を知っていたら、よいアドバイスができたかもしれないが、そうした知識もなかった。
まちづくり授業は今年で8年目に入った。途中の3年半は文部科学省の特色ある大学教育支援プログラム(特色GP)に選定され、疾風怒濤の海を航海しているような3年半であった。現在は、若手の工学博士である堂免講師と私の二人でおとなしく授業を進め、学生にはじっくり力を養ってから、地域社会に出なさいという指導方針に変えている。
これからも可能なかぎり「まちづくり」授業は続けるつもりなので、植樹会の取り組みと連携協働し、お互いの発展にプラスになるような関係構築を願っている。