「記念植樹によせる思い出」坂本 裕子 平20社

3月14日、東キャンパスの生協前に私たちの木を植えました。レンギョウという木を三本とシモクレンという木を二本、雨が降る中での植樹でした。
ぼんやりと高尾行き列車の車窓から見える風景や大学通りの四季折々の美しさを思い浮かべると、その延長線上にはいつも緑で覆われたキャンパスがあります。駅から右手の西キャンパスにはステンドグラスの美しい附属図書館や荘厳な兼松講堂、ゼミで二年間通った研究室があります。そして、講堂横の切り株で作ったベンチと黄金色の落ち葉、硬式野球場奥の岸田ロードの刈り取られたばかりの下草、秋の天気のよい日にカモを眺めながら昼食をとったひょうたん池は、雪が降った次の日に足を滑らさないように注意して歩いた西本館前の風景と一緒になって、そのにおいや肌に感じる感触を呼び起こしてくれます。勿論、信号を横断した先の東二号館の窓からは新入生の頃の私と友人が裏手でスポーツ大会の練習をしているクラスメイトを呼んでいます。池の周りではぐるぐると自転車が走り、ペダルをこぐ友人の楽しげな雰囲気が学園祭のはじまりを教えてくれます。このキャンパスの隅々まで、木一本そしてミミズ一匹や蜘蛛の巣一個まで、講義を受けた机や自動販売機の返却口までに、ありとあらゆる思い出が詰め込まれています。
青春時代の若さと思い出の美しさが卒業前からキャンパスに対する私の思いを感傷的なものにしていました。そして卒業した今となっては雨になると水溜りがあちらこちらにできて、靴下の先がぬれるあの感触もいとおしいほどに懐かしく感じられます。そんな思いを込めて、私たちは木を植えました。「絆」と名づけられた私たちの記念樹はしっかりとキャンパスに根を張り、過去の思い出と未来の私たちを繋いでいます。いつか「絆」の木が東二号館のあの窓から見上げるような高さまで成長したら、静かな気持ちでキャンパスを訪れたいと思います。卒業前に詰め込んだ思い出を探しに行くのです。きっととても清清しい気持ちで、とても嬉しい気持ちで探しに行くことができるでしょう。

私たちの思い出のキャンパス、それに続く未来のキャンパスがいつまでも美しいことを願って、植樹会の活動にあらためて敬意を表したいと思います。

以上