「社会科学を学ぶ意義」商学部3年 瀬野公也

年が明けたのがつい先日のように感じられますが、早くも二月が終わろうとしています。皆様いかがお過ごしでしょうか。学生理事の瀬野と申します。本日は私たち、一橋生が日常的に学んでいる社会科学の意義について、学生の身ではございますが、少し考えてみたいと思います。

景気が良くなると、自殺者数が増加する。皆様はこの直感に反する事実をご存知でしょうか。社会学者デュルケームは、アノミー(anomie)という概念を用いて、この現象を鮮やかに説明しています。このアノミーについて、モデルを用いて考えてみましょう(長くなってしまったため、興味がある方は文末をご覧ください。)

このモデルで説明されたのは、社会の状況が良くなることで、絶望に陥る人数が増加することがあるということです。これがアノミーです。この概念を用いて、好景気になると自殺者数が増加するのだとデュルケームは説明しました。この現象は企業内でもみられ、昇進率が高い組織であるほど、不満を持つ人数が多くなると実証的に示されています。周りで多くの人が昇進しているのもかかわらず、昇進できない自分の不遇に対して不満を持つのです。

このような直感に反する現象を、その背後にあるメカニズムに目を向けることで、鮮やかに説明することが社会科学の醍醐味であると私は考えています。この社会科学的思考法は、常識にとらわれない「ものを考える能力」を鍛えてくれます。「好景気→自殺者数増加」などの常識では考えにくい現実を説明することで、常識を疑う能力を培うことができると考えられます。ヤマト運輸の中興の祖である小倉昌男氏も、この能力に長けた人物でした。宅急便ビジネスを導入する際に、役員全員の反対を受けながらも、導入に踏み切ることができたのも、まさにこの能力があったからに相違ありません(詳しくは小倉昌男『経営学』をご覧ください。)社会科学系総合大学としての一橋大学に入学できたことを誇りに思うとともに、今後もこの能力を鍛えていきたいと私は考えています。

【補足】モデルの内容

10人のプレイヤーがある投資ゲームに参加するか、しないかを決定する権利を持っています。この投資ゲームに参加するためには1ポンド支払う必要がありますが、参加したプレイヤーのうち2人が勝者となり、3ポンドを得ることができます。2人だけがゲームに参加すれば期待利得は2、3人が参加すれば期待利得は1、4人なら0.5、5人なら0.2、10人全員が参加すれば-0.4となります。

ここで、この10人のプレイヤーのうち、5人は絶対に損をしないように行為(期待利得が負にならないように行為)し、残りの5人は損をする可能性があっても投資する(利得の期待値が負になることをいとわない)と仮定します。そうすると、このゲームでは後者の5人だけが投資を行い、そのうちの3人が損をすることになります。

ここでゲームの内容を少し変えて、得をする勝者が4人のゲームを考えてみましょう。すると、10人全員がゲームに参加したとしても期待利得が正となるため、先ほどのゲームには参加しなかった5人を含む、10人全員がゲームに参加することとなります。そして損をするプレイヤーが6人になるのです。