如水会寄付講義『緑の科学』の講師を務めて/ 関 統造(昭41社、植樹会顧問、前如水会事務局長、森林インストラクター)

新生植樹会が活動開始して13年が経過した。地味で裏方的な作業がよく続いて来たものと感慨深く、多くの関係者のご努力に敬意を表したいと思う。
母校の緑の財産(キャンパス)の手入れや保全は個人では限界がある。樹木は人間より長生きするからだ。キャンパスの保全は常に変化する自然と向き合い、何時までたっても通過点で終わりがない。個の力を植樹会に結集して、創設以来の大先輩方の「思い」を後輩と学生に伝え、それがいずれDNAとなり、永続的活動になれば素晴らしい。幸い最近は大勢の学生が参加する。教職員を加えた三位一体での理想形はもう一歩だ。参加した学生は実によく働く。作業後の懇親会でも積極的に先輩たちと懇談している。彼らは作業を通じ自然と触れあい、非日常的な多くのことを感じ、学ぶと思う。

5年前、執行部が作業活動に何かをプラスしようと検討を重ね、文理共鳴の一環として、『緑の科学』を母校に寄付することになり、2012年夏学期から開始された。講師は顧問の福嶋司先生、筒井泉雄大教センター長それに不肖、私を加え、3~4名で分担して講義している。内容は「緑とは」、「緑の分布」、「緑と生命とエネルギー」、「緑の効用」、「緑と水」、「大学の植生管理とキャンパスツアー」など多岐にわたり、まじめに取り組めば緑マイスターの免許皆伝だ。
第一の目的は、我が国は66%が森林という北欧諸国に劣らず、有数な森林大国だという認識を学生に持ってもらうことにあった。その上でこの緑(森林)と国土を支える林業の実態と今後の対策を理解して欲しかった。日本の林業は衰退したといわれて久しいが、戦後の拡大造林による育林は大成功で、問題は輸入材(製品)の増加によって乾燥/製材部門が衰退してきたことにある。2000年をボトムとして木材自給率は徐々に回復しているが、今後の輸入材の価格動向により、この分野への投資が再開される可能性も十分ある。

森林の効用は木材供給のみならず多岐にわたる。主な効用として、①炭素貯留、②水源涵養、③自然災害防止、④保険/風致保全、⑤特用林産物供給、⑥多様な遺伝子の保存、⑦生活環境保全など、保安林として17種類の目的に分類、指定されている。林業は残念ながら投資回収が遅いため、現在の市場経済には向いておらず、将来像も不透明である。また3K産業と考えられ、労働力も不足している。零細私有林が58%を占め、所有者不明や整備不良林が散見されるなど、問題も多い。森林は単に木材を供給する場ではなく、多岐にわたる効用があり、我々は直接または間接的に大いに恩恵を受けている。行政は産業と国土保全の両面から林業の将来像を策定し、その効用を正面から適正に評価し、適正な対価を森林(林業)に払い、複合産業として育成する段階に来ていると思う。
講義を受けた学生たちは、キャンパスの緑が、防音、防塵、気温緩和、湿度調節の役割を果たし、教員や学生の研究/教育環境を保全していることに今、気が付いたと思う。次回の完結編では森林の大きな効用の一つ、水源涵養、緑と水について学生の反応をお話したいと思う。

以上